近年、中小企業や小規模事業者を中心にM&Aが再び盛んになってきました。ただその割にM&Aの成約率や最終的に成功する割合は3割程度と低調です。
 これには諸々の要因が考えられますが、最大の要因は経営戦略上の目的・ゴール設定が不明確であることです。M&Aとは本来、この経営戦略上の目的、そして最終的なゴールを実現するための効果的な手段といった位置づけです。
 経営戦略上の目的とその手段としてのM&Aの関係が、目的・ゴール設定が不明確であったためにあいまいな関係になってしまい、M&Aそのものが目的化したりゴールそのものとなってしまうのです。

M&Aの最大の失敗要因−ゴール設定が不明確

 M&Aは経営戦略上の目的・ゴール設定を実現させるための手段と位置付けられるわけですが、その目的・ゴールとはどのようなものか詳しく見ていきましょう。
 企業はその経営規模に関わらず、経営理念(経営コンセプト)といったものを設定しています。企業によっては「社是・社訓」といった名称で呼ばれています。創業経営者から引き継がれてきたその企業のビジネスに対する基本姿勢であり、また、企業における究極のゴールといえるものです。
 そして、この企業理念に基づく経営を実現するために、経営ビジョンといったものを策定します。経営ビジョンは、経営理念を受け、中期・長期の企業のあるべき姿を描くものです。この経営ビジョンを実現するための具体的な行動計画として、経営戦略(事業戦略・部門戦略を含む)を策定します。そして、この企業戦略と企業の現状とのギャップ(乖離)を埋める有効なツール(手段)としてM&Aがあるのです。これらの関係は以下のようになります。

      

      

①ゴールとしての経営理念
②当面の目的としての経営ビジョン
③具体的な目標としての経営戦略
④経営戦略を実現する手段としてのM&A

このように、 M&Aから遡及的にゴールに向かうといった流れになります。 やや抽象的ですので、具体例をもって見ていきましょう。
 ある企業の創業者が、当社の経営理念は「会社の継続的な発展と社会貢献」とすると決めたとします。それを受けて「3年後には地域で1番の会社にする。5年後には周辺エリアに支店を設け、さらに10年後には支店を各地に設けて全国展開する」といった経営ビジョンを策定したとします。
 ここで具体的な数値を用いた目標として経営戦略が必要となります。とりあえず、3年〜5年先までの事業計画、利益計画を作成します。向こう5年間の売り上げ利益は、そしてどこに何店舗支店を設置するのか、支店長は誰にするのかなど、具体的な数値などを計画書に落とし込んでいきます。
 そして実行段階に入ります。ここで経営戦略を実行する手段が必要になります。その有効なものの一つがM&Aというわけです。
 上記の関係図を矢印に遡ってゴールに達することができれば申し分ないのですが、当面3年〜5年あたりの目的としてのビジョンが達成できれば、M&Aは成功したと評価してもよいと思います。
 一方、経営者やM&Aプロジェクトチームのメンバーが、経営理念・ビジョン・戦略といったものを共有せずM&Aプロセスを実行していると、関係図の4から先に進むことができず、自己完結することになります。これが「M&Aの目的化」です。
 本来関係者全員がゴールに向けた「ベクトル合わせ」をしながら、M&Aプロセスを実行していくべきなのに、M&Aプロセスを進めることのみが目的となってしまっているのです。
 たとえば、M&Aアドバイザーとの相談・契約が完了したら、次は候補企業探し、そして基本合意・デューデリジェンスとそのプロセスだけを進め、最終譲渡契約からクロージング(決済)により、一応のM&Aが完結します。ここでゴール設定が不明確であったため、これから先どうすべきなのか、どこへ向かって行けばよいかがわからず、M&Aが成約したにも関わらず、失敗に終わってしまうということになるのです。

 M&Aには本来、明確な目的やゴールといったものがあるはずです。ところが、M&Aのプロセスが複雑で難しいことから、外部のM&Aアドバイザーに依頼せざるを得ない、また、専門的知識やノウハウも必要で、公認会計士、税理士、弁護士といった外部の専門家の関与が必要であったりと、M&Aの手続きそのものにのみ注意がいってしまう傾向にあります。
 これがM&Aが失敗してしまう最大の要因です。まず、目的設定をすること、そしてゴールを明確に認識すること、その上でこれら目的・ゴールを常に意識しながらその手続きを進めていくことが、M&Aを成功させる最も確実な方法です。