一時期下火であったM&Aですが、最近また盛んに行われるようになってきました。以前は大企業を中心に行われていましたが、今では中小企業から小規模事業者、そして個人経営者までもがM&Aを行うようになっています。
 しかし、その成約率は3割程度と、思ったほどうまくいっていないようです。これはM&Aというディール(取引)が特殊なものであることに原因があるように思われます。
 M&Aも広い意味では売買取引といった行為ですが、企業や事業といったものが取引対象であること、そして、その取引のプロセスが複雑で専門的知識やノウハウが必要であること、仲介会社が間に入ることといった特徴があります。通常の売買であれば、売手側・買手側双方が、「売ります」、「買います」といった意志の合致により成約します。これに対し、M&Aでは売手側企業・買手側企業の間に、M&Aアドバイザー、仲介者といった M&A事業者が入り、何度も話し合い、交渉を重ねて契約に達することになります。その間に、双方企業の経営者の気持ちが変わったり、これら企業を取り巻く経営環境が変化することで、当初の条件から大きく後退した内容の契約になったり、契約そのものがブレイクしたりします。
 また、M&Aはその成約からが本格的なスタートで、M&Aにより事業統合(PMI)し、シナジー効果が発揮され、企業価値の増加があって初めて成功したと評価されるものです。そのため、M&Aが成約しただけでは成功したかどうか判断することは難しいのです。3年から5年経過したあとでも、M&Aによる企業や事業の統合によるシナジー効果がみられず、かえって業績が悪化しまい、この時になってはじめてM&Aが失敗してしまったと結論づけられることも少なくありません。

M&Aで失敗する原因は何か

 M&Aで失敗する原因で最も大きなものは、上記のようなM&Aの特徴を十分理解していないことです。そしてM&Aは、あくまでも手段であって目的ではないといったことへの認識不足にあります。
 本来、M&Aは企業が経営戦略上の目的達成のための有効な手段として利用するものです。ところが、手段であるものが目的と化してしまっているのです。何のために今のプロセスを行っているかが十分理解できず、そのプロセスを無事に終わらせ、次のプロセスに移ることしか考えていないのです。その結果、M&Aがとりあえず成約し終了してしまうと、次に何をやるのかわからなくなって、途方に暮れてしまうといったことになってしまうわけです。
 では、こうした明確なM&Aの戦略と、その目的・ゴールの認識がないことによって起こる、M&Aの主要プロセスにおける失敗例を見ていきます。

M&A事業者の選定の際の失敗

まず、最初のプロセスであるM&Aアドバイザーや仲介者などの事前の相談において、何のためにM&Aを行うかの明確な説明ができません。そのため、いかに早くコストをかけずにM&Aを実行するかに目がいってしまい、クライアントに寄り添いながら、本来の目的を達成することができるよう支援してくれる事業者選びができず、結果として中途半端なM&Aに終わってしまったり、失敗してしまうことになるのです。

トップ面談・交渉の際の失敗

 M&Aの明確な目的を伝えないままM&Aアドバイザーなどに依頼すると、マッチング(相性)を考慮せず、売買候補を引き合わせます。そうすると、面談当初から売手側では法外な売却価格を提示し、買手側ではいかに安く買い叩くかといったことに目がいってしまい、双方の信頼関係を構築することができず、最悪の場合、交渉決裂に終わることになります。

バリュエーション・デューデリジェンスの際の失敗

 買手側企業にとって特に重要なプロセスのバリュエーションを、担当スタッフが経営戦略上の明確な目的を共有しないまま行うと、適正な企業価値は算定できず、合理的な買収価格の提示をすることも不可能です。
 同様に明確な視点から、デューデリジェンスを実施せず、外部の専門家に丸投げしてしまうと、簿外債務の発生などさまざまな問題が表面化し、その結果、買収価格の減額その他契約内容の見直し、あるいは契約解除といったことになってしまいます。

事業統合(PMI)の際の失敗

 経営戦略上の手段としてのM&A、そして事業統合によるシナジー効果と企業価値の増加といった一連の流れは、本来の目的・ゴールと密接不可分な関係です。そのため明確な目的を理解せずM&Aを行っても、事業統合(PMI)とその後のシナジー効果の発揮と継続的企業価値の増加は望めません。

 このようにM&Aにおける失敗の主因は、経営戦略上の目的の認識や理解が不十分なことです。そのため、本来手段であるはずのM&Aが目的になり、そのプロセスの実行に注力してしまい、その後の事業統合(PMI)がうまくいかなくなってしまうのです。