M&Aが失敗してしまう原因には、さまざまなものがあります。その中でも特に大きな原因がM&A戦略の不足、いい換えれば、M&A戦略上の目的が曖昧なことです。
そして、M&Aは経営戦略や事業戦略上の目的を達成するための手段であり、目的そのものではありません。プロジェクトが開始すると、担当者はM&Aそのものが目的であると思い込んでしまう傾向が多く見られます。
M&Aの目的は何か、何のために行うのか、そして今何をすべきかといったM&Aについての目的を認識し、共有することなしにM&Aのプロセスを実施してしまうと、M&A契約は成立しても、その後の事業統合に失敗してしまいます。

経営戦略とM&Aの関係性

企業には、社是、社訓といった経営理念があります。創業者の経営に対する思いや考えを表した抽象的なものです。これを具体的にしたものが、経営ビジョンです。この経営ビジョンは、5年から10年といった長期における企業のあるべき姿を示したものです。たとえば、将来の売り上げ、利益は現在の何倍にするとか、業界トップになるといったものです。
そして、この経営ビジョンを実現する具体的な行動計画として、経営戦略があります。M&Aは、この経営戦略を実現する手段のひとつといった位置付け、関係になっています。

M&A戦略不足による失敗

このような経営理念、経営ビジョン、経営戦略そしてM&Aの位置付け、関係を理解していないために起こる、重大なM&Aの失敗原因が「M&Aの手段の目的化」です。
M&A戦略上の明確な目的がないために、M&Aアドバイザーや仲介業者からの紹介案件に安易に飛びついてしまうのです。その結果、M&Aによる買収そのものが目的といった消極的なM&Aとなってしまいます。中途半端なバリュエーション、デューデリジェンスなどにより投資分析を誤り、M&Aアドバイザー、仲介業者、そして相手側企業からの評価を下げてしまうことになります。
その結果、こうしたM&Aアドバイザーや相手側企業に足元を見られ、安く買い叩かれたり、不利な条件でM&A契約を締結させられたり、あるいは交渉がブレイクしたりといったことになるのです。
また、経営理念、経営ビジョンといったものの認識が不足した状態で買収したため、自社と正反対の経営理念、ビジョンを持った企業を傘下に置くといったミスマッチが起こり、統合作業が難航する、あるいは破綻するといったことになるのです。
一方、経営理念、ビジョン、戦略、手段としてのM&Aとの関係を把握しているならば、企業の現状と経営ビジョンのギャップがわかります。
そしてこのギャップを埋めるためにどうすべきか、自社の経営資源のみで解決していくのか、M&Aにより外部から調達すべきかといった合理的な判断が可能になります。
自社のみで実施する場合の時間やコスト、そして想定されるリスクは何か、一方、M&Aを利用した場合はどうか比較検討し、M&Aのほうが短時間で、比較的低いコストで目的が達成でき、リスクも低ければ、M&Aを実施しようといった意志決定ができるのです。また、このようなM&A戦略の目的と手段の関係を前もって理解していれば、M&Aアドバイザーなどの協力を得て、そのメリットを十分引き出すこともできます。

売手側・買手側の具体的なM&A戦略目的は?

最後に、売手側・買手側にとっての具体的なM&A戦略には、どのようなものがあるのかについて見ておきましょう。

売手側のM&A上の戦略目的

売手側企業がM&Aを実施する目的としては、経営不安の解消、事業の選択と集中、新規事業とそのための資金調達などがあります。また、近年は、後継者不足による事業承継問題を解決するための出口戦略として利用されています。

買手側のM&Aの戦略目的

買手側企業にとっては、M&Aによる統合で得られるメリットはシナジー効果です。これによってコスト削減できたり、規模の経済が発揮できたり、あるいは新規事業が可能になることです。そして、継続的に企業価値を高めていくことです。双方企業の担当者はこうしたM&Aの目的を常に意識しながら、プロセスを進めていくことが大切です。

M&Aの成否を決定する最も大きな要因がM&A戦略の策定です。そして、M&Aは戦略上の目的を実現するための手段です。この目的と手段の関係を認識し、M&Aが目的とならないよう常に意識することが重要です。