M&Aの成否を左右するものに、人材の扱い、従業員への対応があります。M&Aを進める過程で、この従業員への対応が不十分な場合、有能な人材、業務上のキーパーソンが退職し、その従業員の持っている技術、技能、ノウハウといったものの喪失、キーパーソンの退職による部下の連鎖的な退職といったことが起こり、企業価値が低下してしまいます。その結果、不利な買収価格や条件で契約締結することになったり、交渉決裂といった事態に陥る可能性があります。

M&Aにおける人材流出への対応策について

一般的な企業の経営資源は、「ヒト」、「モノ」、「金」、「情報」などがあります。この中で、「モノ」、「金」、「情報」といったものは管理することができますが、「ヒト」とその提供する労働力といった経営資源は管理が難しいものです。「モノ」、「金」、「情報」などは感情を持っていませんが、「ヒト」は感情を持っています。その対応には十分な配慮が必要です。
M&Aを実施する場合も同様、細心の注意を要します。M&Aの実施に際して注意すべき従業員への対応としては、まず、M&Aを通知するタイミングです。そのほかに、従業員の雇用・処遇の維持、そして統合後のマネジメント体制などです。

M&Aを従業員へ通知・開示するタイミング

基本的に従業員への通知・開示はできるだけあとにすることです。また、役員などの場合と一般の社員の場合で、その時期は違ってきます。キーパーソンや役員などの幹部クラスに対しては、ある程度余裕を持って通知・開示します。この場合、個別の面談といった形で十分話し合い、同意を得ることが大切です。
また、一般の社員の場合は、最終譲渡契約日の前後がベストです。朝礼などの全社員が集まる中で、買手側企業の経営者とともに挨拶し、M&Aで実現する目的、今までの経緯、今後のこと、従業員への処遇などについて説明し、不安を取り除くことが重要になります。

従業員への雇用や処遇の維持について

最も重要な対応策です。一般的には、従業員の雇用や処遇についての決定は、買手側企業の専権事項です。ただ、売手側企業の業績がよく、人件費も適正な範囲であれば、現状維持も可能です。
優れた技術、技能、ノウハウを持った人材の流出を防ぐには、こうした人材、従業員のモチベーションの低下は何としても回避しなければなりません。
ここで注意すべき点は、すべての従業員に対して配慮すべきではないということです。売手側企業にとっては企業価値を高くしてくれる人材を、また、買手側企業にとっては、M&A後の事業統合に有用な人材を対象とすることです。私情を排した客観的な視点が必要です。

統合後のマネジメント体制について

M&Aの本格的なスタートは、M&A成約後の事業統合からです。この事業統合いかんによって、M&A全体が成功か失敗かの判断がされることになります。
そのため統合には、買収した企業のキーパーソンや有能な人材の協力が必要不可欠となります。買手側企業から派遣されたトップのもと、プロジェクトチームが組織され、双方企業の従業員から構成される分科会が統合作業にあたります。
管理組織のスタンスとしては、経営内容がよい売手側企業であれば、そのままの雇用や社内体制が維持されます。合併などの場合、売手側企業(被合併会社)は完全に消滅し、買手側企業(合併存続会社)の雇用、社内体制がそのまま適用されます。問題となるのは、売手側企業が買手側企業の支配下に置かれる場合です。この場合、売手側企業の従業員の雇用・処遇といったものに対する保証はありません。また、売手側企業は買われた立場にあるため、従業員がコンプレックスや不安、不満感などを持ったりして退社することも考えられます。
このスタンスの場合が、最も人材の流出のリスクが高くなるため、その対応策にも細心の配慮が必要になります。

このように、M&Aでは人材の流出がその成否に大きく影響します。そのため、従業員の対応には細心の注意をもって対応することが重要です。